笑顔の風景(3)

毎年夏に妹家族がアメリカから帰ってくるのにあわせて、
弟家族、両親と一緒に旅行にいくのが恒例となっている。

旅行先での楽しみに、最近、家族麻雀が加わった。
親父は市の麻雀教室に通っている。

親父と弟とその妻、僕の4人で囲んでいたときの話だ。

弟の長女めいちゃん(小学2年生)は、弟に教わりながら
ゆるく参加していた。途中、席をたって僕の横にきた。

「めいちゃん、ほかの人のを見てもいいけど、どんな牌を
もっているかは言っちゃだめだよ。『西』があるとかさ」

さとす弟に

「西はまだよめなーい」

と笑ってこたえる。わかっているのだろうか。
静かにじっと僕の牌を観察している。

「リーチ!」

テンパイ(あと1枚であがりの状態)となって、僕はリーチを
かけた。白(はく)と字牌のどちらかであがりとなる、
出やすいはずの待ちだった。

そのとき、衝撃の一言が卓上に響いた。

「明おじさん、『予備』もってる~♪」

がーん。

そうか。何も書いてない牌は、牌の一種ではなくて
予備だと思ったのか。

「えっ予備って…」

弟と義妹がにやにや笑いながら顔を見合わせる。
残念ながら、ぴんときてしまったようだ。

僕のあがり牌「白」は結局最後まで出なかった。
この局は5人目の参加者がキーマンとなった。

「あのさ、予備があるーとかも言っちゃだめなんだよ」

笑顔で僕が言うと、

「えっなんでー?」

皆の注目をあびたのが嬉しそうだった。

30分後、勝負は南3局で終わりにさしかかっていた。
そのとき義妹が

「これって『カン』でしたっけ」

自ら3枚集めた牌と同じ牌をつもったとき、「カン」を宣言して
手を進めることができる。

彼女は一索(イーソウ)4枚を自分の牌の横に出した。
竹の本数で2,3と数字が決まる索子(ソウズ)のなかで
一索だけは鳥が描かれていて独特の図柄だ。

次に弟の番になった。だが手がとまって様子が少し変だ。
明らかに動揺した様子で口を開いた。

「兄貴、ちょっといい?あのさ…」
「俺のところにもう1枚、一索が来たんだけど」

「えっ!」

そんなはずはない。いまさっき、一索はカンされたばかりだ。
同じ種類の牌は4枚ずつしかない。

「なんだなんだ、うん?一索?
それなら俺のところにも3枚あるぞ」

今度は親父が自分の手配から3枚の一索を出した。

「なにっ~!!」

笑いすぎてその場でひっくりかえった。

一索が8枚もある。もうゲームどころじゃない。

弟がチェックすると、ローカルルールで使われる「花牌」
が混じっていた。ぱっと見、一索の鳥に似ている。

しかし最初からずっと一索がもどきふくめて8枚もあって
誰も気づかなかったのか。

親父は自分で3枚持っていながら、義妹がカンしたとき
何とも思わなかったのか。

素人麻雀はこれだから面白い。

この話を思い出すたび、僕と弟は今でも1分ぐらい笑い続けてしまう。

記:根本

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