まっすぐへの憧れ(2)

大学生になって最初の年があけた頃、20歳にして
人生初の海外旅行のチャンスがやってきた。

海外も一週間以上の旅行も一人旅も、全部「初」だ。

東海岸のシドニーからはいって西海岸のパースまで
全23日間の日程で、往復の航空券と旅の後半に乗る
「ある列車」以外は事前に何も予約しなかった。
いわゆる放浪の旅だ。

1991年の春はちょうど湾岸戦争が始まっていて、
卒業旅行の行く先を皆海外から国内に変えていたが、
両親の心配をよそに僕は単身豪州にむかった。

「いつどこに泊まるか書いていってね」

母から言われて、最初の3泊はシドニーのホリデーインに
泊まるがそのあとは未定だと嘘をついた。
シドニーにホリデーインが在るかは調べなかった。

勢いだけでシドニーの街中にきたものの、知っている英語の
イントネーションと少し違う。急に不安になった。
見たことのあるマクドナルドのマークにすいよせられるように
はいり、オレンジジュースを飲んで一息ついた。

さてどこにいこうか。
「地球の歩き方」にたよって、安宿がありそうな場所にむかう。

キングスクロス。
南半球最大の繁華街だという。
歌舞伎町をイメージしたが、規模は小さく、昼間は
ふつうの静かな商店街だ。

駅をあがって通りを歩くとすぐに呼び込みの声がかかった。
バックパックを背負っているので旅行者とわかるのだろう。

「3泊するなら1泊15ドルでいいよ」

耳を疑った。1泊千円ちょっとなのは貧乏旅行にはありがたい。
もちろんこのときは、この旅でこれより高価な宿には1度しか
泊まらないとは知るよしもない。

通りに面した金属の扉をあけて階段をあがっていく。
綺麗とはとてもいえない外観なので少しドキドキする。

リビングルームには大きな冷蔵庫とキッチンがあった。
共同で自炊をしながら長期滞在する旅行者専用の宿だ。

3泊の代金、45ドルを払うと、枕カバーとシーツを
渡されて部屋を案内してくれた。

「ハロー」
いきなり面食らった。

金髪で綺麗な女性が笑顔で声をかけてきた。
ベッドにすわってリュックに荷物を詰めていた。
まさかと思ったが、僕のベッドは彼女の上だった。

「ソーリー」
彼女は僕がこれから上にあがる階段に干してある
下着などの洗濯物をはずした。

旅行者の「世界標準」に驚いているのはさとられたくない。
僕は世界30ヵ国を旅してまわっているトラベラーのように
軽く笑顔で挨拶した。

男女共同の6人部屋で、全員海外からの旅行者だ。
ほかのベッドも皆うまっているようだが、
昼間で外出中のようだ。

海外初日の宿としては悪くないじゃないか。

その夜、ちょっと下を気にしながらベッドに横になって考えた。

明日からどんな旅になるんだろう。
いつどこに誰といこうと、全部自由だ!

単なる無計画とは違う。
こういうのを計画的な無計画、っていうんじゃないかな。
そう気づいたらおかしくなった。

時差はないといっても、初海外の緊張と
日本と正反対の季節で少し疲れたのだろう。

壮大な無計画をたてていたが、
知らぬまに心地よい眠りについた。

「記:根本」

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