最初の夏休み(8)

宿泊している日系のホテルではフロントでもショップでも
日本語が通じた。ここの従業員は日本語が出来ることが
条件になっているようだ。

着いたときから気になっていたフロント脇のショップに
入ってみた。

「お兄さんは日本のどこの人ですか?」

僕より若いと思われる女性店員から話かけられた。
東京だと答える。

「お兄さんは怪しい上海の人に見えます」

想定外の返しでずっこけた。こういうとき相手に興味をもって
会話をはずませるのが自分の特徴だ。

「どこが上海なの?何であやしいの?(笑) それにしても日本語うまいね」

顔立ちと背が高いところだという彼女達の説に説得力はないが、
そんなことおかまいなしにすぐに3,4人の店員に囲まれて
質問責めにあう。暇つぶしの恰好の相手があらわれたということらしい。

ハルピンの日本語学校で学んだという日本語は、発音も
イントネーションも正確で驚いた。ぼろぼろになった日本語の教科書が
ショーケースの下から出てきて、単語の意味を聞いてきた。
即興の日本語教室が始まった。

北京滞在の4日間、このショップには何度も足を運んで店員とは
皆名前でよぶほど仲良くなった。ツアーメンバーは自分の親より年上の人
ばかりなので、同世代との会話が楽しかった。

朝食後、近くの小さなデパートにも足を運んでみる。
デパートと思ったが、ワンフロアに30ぐらいの小さな店がひしめく
屋台村だった。客引きが盛り上がっている。

ぶらぶらしていると、ジーンズがたくさん天井から下がる店で
きもったま母さん風のおばさんにつかまった。

「お兄さんこれリーバイスよ、安いよ」

つり下がるジーンズのひとつを手にとって僕に見せる。

試しに、いくら?と中国語で聞いてみる。練習してきた中国語のひとつだ。
返答を聞き取れる自信はないが、おばさんはニコリともせずに
電卓をだして数字を見せた。500元、日本円にすると7千円だ。

最初からジーンズを買うつもりはないので、不要(ブヨ)と答えて
立ち去ろうとした。そうすると、また僕の袖をひっぱり電卓を見ろと
ジェスチャーをする。数字が400になっている。

―やはりな。こういう場所では値切るのが常識だからな。
ほれ2割さがった。

そう思うもこちらは買う意思とお金、語学力の3つがぜんぶ足りない。
また立ち去ろうとすると今度は数字が300になった。

―あれっおかしいな。確かにリーバイスってラベルにあるけど
中古品か不良品かな。

別の興味が沸いたが、ますます買うわけにはいかない。
隣の店にいこうとしたとき、おばさんは驚くべきひとことを発した。

「まったくもう本物のリーバイスなのよ。じゃあ100元でどう?」

―自分で言ってることがわかってるのかな…

心の中で爆笑だ。
手にはいつの間にか天井から取り外したリーバイスがある。
ものの5分で8割引きになってしまったが、本物だと真顔で主張する
おばさんの顔をみているうちに買ってみようという気になってきた。

試着室のような洒落たものはもちろんないので、その場で長さだけ
あわせて100元で「本物の」リーバイスを買うことになった。

あとで知ったがこの建物は有名な巨大偽物市場だった。
買いにくる人もわかって買っているので問題にはならないそうだ。

それはさておき、ホテルに戻りすぐ試着してみる。
サイズはぴったりで切る必要はない。

―1400円ならいい買い物だったかな。やりとりも楽しかったし。

そう思って脱いでいるとき、チャックの上部にあるボタンが
ポロリと取れた。

記:根本

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