素人菜園帳(38)

―いつも通るたびにこれ何だろう、って娘と話ししてたのよ。
綺麗な緑の葉っぱね。

前回紹介のパッションフルーツだ。

塀の外にはみ出したツルを道に出て切っていたとき、
隣に住むシニア女性に話かけられた。

そういえば先週も、これ何なのかしらと、通りすがりの老夫婦に
聞かれた。経験豊富なシニアでもわからないようだ。

今の時期、散歩していてよく気がつくのは赤く熟したザクロや、
まだ実が緑のイチジク、そして香りで惹きつけられる金木犀だ。

実がならない果樹は、ぱっと見何だかわからない。
つるぼけ実なしでも、注目を集めるという立派な役割があった。

―へえ、東京でも育てられるのね。

パッションフルーツと聞いて、彼女は目を丸くした。
南国のイメージが強いので当然だ。
グリーン棚には実はおろか花もどこにもないので、
テラスで育てている様子をスマホで見せた。

―2Fでは4つの8号鉢で育てています。
花が時計に似ているので時計草ともいうそうです。

―えっ時計草がパッションなの?

時計草、に強く反応したのでちょっと戸惑う。
=なのか≒なのかわからなかったので、一種だと思いますと
言葉をにごした。あとで調べると、時計草は500種もあって
パッションはその一つ、クダモノ時計草の実のようだ。

となりで「井戸畑会議」に参加していたつれが、さっと上にもどって
収穫したてのカゴをもってきた。

―あら綺麗な実ねぇ。鉢でこれが獲れるなんてすごいわ。

熟していそうな2玉を渡す。

―えっせっかく大事に育てたのに悪いわよ。

地植は見事に失敗したが、鉢では20個以上はとれそうだと
安心してもらう。恐縮させてはかえって悪い。

―この皮がもっとしわしわになってから食べると、酸味が
ほどよくぬけて甘いです。

最近知ったばかりの豆知識を、10年前から知ってる口ぶりで
さらっと伝える。

―あら嬉しいわ。ありがとう。ではゆっくり頂くわ。

ほんの数分のやりとりだが、素人菜園ではこの「偶然のひととき」を
大事にしている。

獲れたものを袋にいれて呼び鈴をならして届ける、ということは
あまりやっていない。

収穫中にお隣さんが出てきたら、採りたて野菜を土がついたまま、
手袋をつけたまま塀越しにひょいと渡したい。

力を抜いたほうが長くゆっくり楽しめる。
そんな気がしている。

記:根本

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