もといた会社の囲碁部の合宿幹事を、入社したての23歳の頃から
もう四半世紀続けている。
毎年2回ほどだから、いままで合計50回近くになろうか。
思い出すたびに笑いがこみあげる楽しい記憶がいくつもある。
毎回箱根、熱海、伊東など温泉のある近場に向かう。
ここ5、6年はずっと湯河原だ。
メンバーは毎回ほぼ決まった12,3名が集まる。
常連のKさんは80歳。ムードメーカーでまわりからは
名前で「和正さん」と呼ばれている。
僕もご自宅や趣味の水彩画の展覧会を訪れたり、ランチを
ご馳走になったりして日頃から親しくさせて頂いている。
仲間というより友人だ。
和正さんは、合宿メンバーの中では棋力が下のほうだが、
そんなことは全く気にかけず、いつも楽しそうに打っている。
「囲碁っていうのはね、こういうふうに打つもんですよ」
調子がでてくるといつもでてくるお決まりの台詞だ。
何子も置いている下手が上手にいうのだから可笑しい。
真剣に対局中の皆もついわらってしまい場がなごむ。
メンバーの高段者Sさんとの5子局でのことだ。
和正さんが珍しく静かに真剣な表情で打っている。
どうやら盤面中央が佳境を迎えている。黒はしのげるか。
数分後、からん、と碁笥のフタに獲った石をいれる音がした。
見ると、黒が見事に白石2つをポン抜いている。
いわゆる「亀の甲」が盤面中央にできた。しのぎが成功したようだ。
たくさん置いている碁で亀の甲が中央に出来たら、碁はオワだ。
一呼吸おいて和正さんが言った。
「これだから碁はやめられねぇなぁ」
いままで静かだった囲碁ルームがどっと沸いた。
相手のSさんも「いやーうまく打たれた」と頭をかくばかり。
集まってきた他のメンバーを前に、和正さんの得意そうな顔。
そして嬉しそうな顔。
「こんどしのぎに困ったら僕に聞いてくださいよ。
打ち方教えてあげますよ」
もう止まらない。
それから30分たった頃だろうか。終局したようなので
整地を見に行って絶句した。
中央の黒、30数石はあろうかの大石が全部死んでいる。
あの、ほこらしげに白2子を打ち上げた「亀の甲」ごとだ。
よく見ると眼らしきものは1つあったが、見事に欠け目だ。
笑いを押し殺しているSさん。
「こんな真ん中に亀の甲つくられてあきらめてたんですよ。
それが和正さん、油断したのか最後まで真ん中の石に手を
入れてくれなくて…」
「あれっいつの間に。おっかしいなぁ」
先ほどの顔色はない。今度は和正さんが頭をかく番だった。
ひときわ恰幅のいい身体が小さく見えた。
この話は1年がたった今も、瞬時に仲間をとびっきりの笑顔に
してくれている。
記:根本
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