まっすぐへの憧れ(7)

旅をはじめて2週間が経とうとしていた。

生来気は小さく、石橋を叩いて渡らないこともあるが、
時に何も考えずに行動してしまう。

大胆というわけではない。別のことに気をとられ、
石橋が見えても叩くのを忘れるのだ。

タスマニアのぶらり立ち寄りのあと、メルボルンに
戻ってきたその夜のバスで再度西に向かう。

深夜バスの中でも目がさえて眠れない。
ここまで偶然出会う人にも場所にもすべて恵まれている。
頭の中でPET SHOP BOYSのヒット曲「GO WEST」
がずっとかかりっぱなしだ。

早朝アデレードに着く。2匹目のドジョウではないが、
今度は宿探しをせずにまっすぐ港にむかう。
フェリーで1時間ほどのカンガルー島が面白そうだ。

宿は島の中心部、キングスコートから少しはずれたところ
にあるユースホステルにした。日本では草津などで泊まったこと
があるが、日本のユースとは大分勝手が違う。

管理人の家に立ち寄り鍵をもらう。部屋の鍵かと思いきや、
建物の鍵、つまりその日の客は僕ひとりだった。

5ドルで自転車も借りる。走り出してすぐ気がついた。
ハンドルのところにブレーキがない。こんな自転車は初めてだ。
足でとめるしかなさそうだが、人や車は見当たらないので
それほど危険はないだろう。

建物は500mほど離れたところにポツンと1軒あった。
電気はついたがお湯は出ない。水も濁っていて沸かしても
飲めそうにない。

その晩は冷たい濁り水のシャワーをあびて、コーラで
うがいをして寝た。不便さを嘆くより、あとでこの経験を
誰に話そうかと考えると楽しくなった。

翌朝、ツアーに参加するので準備をしていたら、まだ30分
ほどあると思っているのにもうバスがきている。

8時15分を8時50分と聞き間違えたらしい。
前日管理人と話したとき、そうそう、8の発音がエイトではなく
アイトなんだ、と自分に言い聞かせたのは覚えている。
そのあと油断して肝心の「分」に注意がまわらなかった。

あわててバスに飛び乗る前に、ドライバーに記念に1枚撮ってもらう。
なにせ「人」に会うのが半日ぶりだ。

ツアーは自然があふれる島の見どころを、夕方までかけてまわった。
野生のアザラシ、カンガルー、コアラ、エミュー、ペリカン
などに出会えて感激の1日となる。

夜、港のそばのバーでアデレード行のフェリーを待つが、いっこうにこない。
今度は聞き間違えではなく単なる遅れのようだ。
その待ち時間を利用して家に電話をかける。そういえば1週間に一度は必ず
連絡をと言われていたのを思い出した。

あらやっとかけてきたわね。いまどこ?元気なの?

それほど心配してなさそうな母の声に少しほっとする。
詳しく状況を説明する時間はないので、毎日元気で
楽しく旅していることだけを伝えた。

日付がかわる頃、4時間ねばった店を追い出されて外で待つことになった。
夏とはいえ、風もふいてきて肌寒い。
懐中電灯を借りて海岸を歩いてみる。ペンギンがいるかもと期待したが
見つからなかった。そのかわり、空には日本とは少し様子の違う
満天の星空と南十字星を見つけることができた。

フェリーがやっときたときには深夜2時をまわっていた。
誰もいない客席で、椅子をどかしてリュックを枕に床にじかに横になる。
あっという間に眠りについた。

「記:根本」

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