素人菜園帳(73)

米国サンディエゴに住む姪っ子(妹の長女)が20歳になった。
習いたてのウクレレでバースデーソングを弾いて送った。
その様子を見た義弟が妹に聞いた。

「Akiraはガーデニングの時に日焼け気をつけてる?
結構焼けてるね」

いいか悪いかは別として
音楽を奏でていても菜園家としてのイメージが先にたってしまう。
長女と一歳下の次女が口をそろえた。

「えっ、いつも長袖着てるよ。だってアンクル明、虫がこわいもん」

嬉々としてその様子を報告してくる妹も妹だが、「虫がこわい」とは
素人菜園家の名に関わるので、ここで弁明させてもらおう。

私は虫がこわいのではない。
蚊が嫌なだけだ。

(似たようなもんじゃない?いや、ちがう)

ここを強調したいのには理由(ワケ)がある。
この2年で、いくつかの虫が好きになった。
クモ、カマキリ、てんとう虫だ。

奴らはアブラムシや青虫など、野菜栽培にとってのにっくき害虫を
食べてくれる「益虫」だ。

以前は玄関に入り込んだクモを見つけては駆除していたが、
最近は丁寧にティッシュで包んで、そっと菜園に運んでいる。

―しっかり食べて大きくなれよ。
―もちろん食べるのはあいつらだぞ、わかってるな。

さらに最近好きになった新顔がいる。
なぜか雨が降る前とあとによく見かける、アマガエルのアマ太郎だ。

玉ねぎやニンニクの葉に気持ちよさそうに挟まったまま、
終日まったく動かない。

―お前はいったいどこから来たんだ。

問いかけても、のどをリズムミカルに膨らませる以外の動きはない。

そばに池も湖も、水たまりもない。
一番近い川(杉並区の善福寺川)までも1km以上はある。
カエルの前はオタマジャクシ、その前はゼリー状の卵。
水がある場所から産まれたはずだが。

―もしかして天から降ってきたのか。

じっと顔を見る。なぜか憎めない。
カエルは気に入った場所にいつくという。
そういえば昔祖父の家にも住み着いた奴がいた。

―お前はここが気に入ったのか。
それならいたいだけいてもいいぞ。

のどの動きがさっきより大きい。何かを食べたのだろうか。

―もしかしてお前…

我が菜園の神様、仏様、益虫様を食べたのではあるまいな。

記:根本

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