当欄で以前、わざとボケているのか天然なのか見分けが
つかない人がいるという話をした。
そんな高度なボケの選手権があったら日本代表のひとりと
おぼしき人と、先日同じ道のりを歩くひと時があった。
年末も差し迫った晴れた日、伊勢神宮の外宮へお参りに
むかった。朝9時半頃なので人もまだそれほど多くはない。
入口近くで信号待ちをしていたとき、ふと斜め後ろに目をやると
見覚えのあるシニアがいた。大学教授風の男性と2人だ。
バス旅で人気を博したその人の番組は最近、彼の年齢を理由に
終了となったと聞いた。
「〇〇さんがいる」
振り返らず声をひそめてつれに言う。
こういう場合、こちらが気づいていると先方に知られるのも
気はずかしい。彼女もさりげなく目線をむけて確認する。
「本人かな。声きかなきゃわかんない」
そりゃそうだ。まぁそうだとしてもプライベートだろうから
じろじろ見たら申し訳ない。特にファンでもないのであまり
気にせず、僕らは自分のペースで外宮の鳥居をくぐり
歩みを進めた。
こちらが手水に寄っているあいだに追い抜かれたようだ。
彼らは少し前を歩いていた。
すると、お参りを終えてこちらに向かって歩いてくる人たちが、
前を歩くその2人組とすれちがいざま、ざわざわしだした。
あれ、〇〇じゃない?
そうよね。本人だよね。
えー、だとしたら年末に縁起いいじゃん。名前からして(笑)。
やはり本人のようだ。
外宮は10か所ほどお参りする箇所があるが、その順番が
決められている。特にあわせたわけでも、気にして歩いている
わけでもないが、どういうわけかスタートから4連続で彼の真横、
真後ろといった至近距離で手をあわせることとなった。
真後ろで順番を待っているとき、彼の右手に一万円札が折って
握られているのに気づいた。
「おい、万券だよ‥」
「しっ、聞こえるじゃない」
つれに小声でたしなめられる。
10か所もあるしまさか全部じゃないだろうな。
それ以降、彼がお賽銭箱に手を伸ばしたときに硬貨の音が
するかつい確かめてしまった。音はしなかった。
見ていると同行の男性に参拝の仕方や作法を教わっている。
少し落ち着かない様子だ。こうした場所に慣れていないか
今日が初の伊勢参りに違いない。
その夜、彼のブログを確かめて驚いた。
今日の伊勢参りのことも書いてあったが、なんと伊勢は
大好きな場所で、ここ何年も毎年少しの時間を見つけては
お参りを続けていた。伊勢の常連でもあり、奥様の影響を
受けて神社参拝も趣味のようなのだ。偶然だが、数日後には
伊勢神宮をゴールにした過去のバス旅のTV放送もあった。
終始腰が低く、サインや写真を求められてもニコニコ笑顔で
自然に応対していた。芸能人のオーラをまったく感じなかったが、
同時に、どう見ても伊勢神宮の常連とも趣味が神社参拝とも
思えなかった。
これが、「わざとと天然の間」で生きる人の技術なのか。
と勝手に納得した。
記:根本
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