笑顔の風景(4)

「あっ今日は誕生日だったかな」

何年か前のことだ。
自宅に伺おうと電車に乗っているとき気がついた。
その日は、以前誕生日の話になったときに一度記憶した
「9月1日」だった。

囲碁やパソコンを教えるようになってもう8年になる
その方は40歳年上の友人だ。

「お誕生日おめでとうございます。今日から85歳ですね」

「そういえばそうですね。そんな歳になったなんて
信じられないなぁ」

本当に自分の誕生日を忘れていたようだ。

小柄ながら背筋はしゃんと伸びて堂々としている。
いつも笑顔でよくしゃべり、ユーモアに溢れていた。

特に贈るものを持ってこなかったのを少し後悔したが、
僕が誕生日を覚えていたことが嬉しそうだった。

3時間ほどかけてゆっくり1局打ったあと、近くの店で
奥様と3人で夕食を、ということになった。

店は急な階段を降りた地下1Fにあって、暗くて足元も
よく見えなかった。手すりにつかまってゆっくり降りながら
言った。

「先ほど、『手抜きが大事だ』とおっしゃってましたが、
それはここでもそうでしょうか」

手すりから手を離すジェスチャーをした。

「いや、ここで手抜きは禁物です。転んだら大変です。
手抜きは盤上だけにしてください」

長い付き合いなので、こんなやりとりはよくある。
こういうとき決まって悪戯っ子のまなざしになる。
僕はそんな目が好きだった。

飲み物が運ばれてきて乾杯したときだった。

「はい、これ、誕生日プレゼントです」

鞄から著書を1冊だして渡してくれた。
あれっ僕の誕生日を覚えてくれてたのか。

一瞬そう思うのも無理はない。4日前は僕の45回目の
誕生日だった。

「今日は僕の誕生日だからね。誕生日の人が渡してもいいでしょ」

大好きな目になっていた。

「あー、そっかそっかー。そうですね!
すばらしい誕生日プレゼント、ありがとうございます」

自分の誕生日に誰かにプレゼントを渡そうという発想は、
いままで聞いたことも考えたこともなかった。

こんな身近にこんな素敵な贈り方があるなんて…。

少年のような笑顔とともに、ずっと心に残っている。

記:根本

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