行き当たりばっかし(15)

―もうここでいい。

親父に言われてびっくりした。
リフトを降りてすぐのところに小さなベンチがあった。
そこに座って妹と僕が観光してくるのを待つというのだ。

―どうせ牛のいない牧場みたいなもんだろ。

先日実家(東京八王子市)のそばにある牧場(磯沼ファーム)に
連れていったのが記憶に新しい。が、それはいくらなんでも山陰を
代表する名所、鳥取砂丘に失礼というものだ。

弱視で障害者2級の親父にしてみれば、雄大な砂丘がしっかりは
見えないかもしれない。だが、このベンチからでは、近所の公園の
砂場とちがわない。

―3分、100mだけ歩こう。ちょっとだから、ね、いっしょに。

妹とともに何とか両親を説得してベンチから立ち上がらせて
砂丘の入り口、高さ10mほどの小さな砂の山を登る。
白杖代わりのステッキが砂に埋もれてちょっと歩きづらそうだ。
ゆっくり一歩。また一歩。

―おおっ!

なんとか登りきると一気に視界が開けて思わず声が出た。
東西どこまでも砂丘がつらなり、向こうには日本海が輝いている。
家族4人、ここにきたのは皆はじめてだった。

記念に僕は思いっきり手を伸ばして4人の自撮りに挑戦した。
腕をプルプルさせながら撮ろうとすると、意味なくお袋が
僕のスマホにむけて手を振る。笑わせないでほしい。

目の前には大砂丘、「馬の背」がそびえる。
高さ47m、斜度32度、15階のビルぐらいある砂の山だ。
せっかくなので妹と一緒に走って登ることにした。

2歳年上のハンデからか、こちらが先に息をきらし途中で
止まった。妹が頂上からこちらにスマホをむける。
ちょっと大げさに「達成感」を表してみた。よく考えると
まだ達成はしていない。

―あの子はむかしっからなんでも大げさなのよ。

ベンチで待つお袋の声が聞こえた気がした。

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