行き当たりばっかし(18)

―あれ、これ、何でだろう。

通り過ぎる寸前、お店の前の看板が目に入って足をとめた。

NEW OPEN  12:34~18:00

吉祥寺で散歩の途中だった。いつも休日の散歩は高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪、
西荻窪のどこかの駅周辺で、吉祥寺まで足を延ばしたのは2度目。
この通りは初だった。

開店時間が12:00でも12:30でもなく12:34にしているのは、
数字の並びで店主の洒落だろう、とすぐ気がついたが、
時計を見ると12:28でまだ開店前で透明の扉はしまっていた。

面白いね、と立ち去ろうとすると、店主が中から笑顔で扉を開けどうぞと。

―この時間はわざとですか?
―そうです、はい。3週間前にオープンしたばかりなんです。

「旅する本屋 街々書林」とある。
旅に関する本だけを集めた専門店だ。

店名もコンセプトも開店時間もこだわっているだけあって、
僕らはあっという間に店内に魅了された。

一冊ずつ丁寧に選ばれた本ばかりでなく、珍しい水彩毛筆や
「書くを愉しむ」という名前のノートなど、遊び心満載だ。

つれにもド真ん中だったようで、さっそく「参道めし」という本を
手に取り、もう買う気だ。

「旅のことばを読む」小柳 淳

帯にはこうあった。

ことばに出会ったとき、旅はもう始まっている。
カレル・チャペックからフーテンの寅さんまで

寅さんとあれば、手にとらないわけにはいかない。
手触り、色、装丁がとてもいい。
レジにもっていくと店主がにっこり。

―それ、私が書いたんです。

なに!ここは作家さん自らの手作り本屋さんなのか…。

すぐに話好きの店主と、まぁまぁ話好きの僕の高速かけあいが
始まった。店内はまだ誰もいなかった。

結局「旅の断片」「街と山のあいだ」若葉晃子の2冊も加え、
さらに先ほどのノートも。
つれは絵を描くのが趣味の義母に色鉛筆がわりにあげよう、
ということで先ほどの毛筆セットと本を。

会計はつれが5千円、僕が7千円也。
大人買い、というやつだ。

新刊書店に行く機会がめっきり減った昨今、
本が3冊で5千円を超えたのは久しぶりだ。

まだ読み始めてはいないが、いつも以上の偶然の出会いに、
この本には何か大きなものが隠れている、そんな気がする。

吉祥寺 街々書林
https://machi2.hp.peraichi.com/tabi/

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