最初の夏休み(10)

3日目の夜はツアーメンバーと北京ダックの「全しゅ徳」だった。
現在は新宿や銀座にも支店を出している北京随一の歴史を誇る名店だ。

ローストしたアヒルの皮を食べるのは知っていたが、薄い生地で
はさんで一緒に食べる食材の種類の豊富さに驚いた。前夜とちがい、
他のメンバーと会話をしながら本場の味を楽しんだ。

昼間がっつり観光をしても、ここ中国には囲碁を打ちにきている。
夜はホテルの一室がずっと対局ルームとして開放されていて、
毎晩日付がかわる頃まで打ち続けた。

中国棋士で日本語堪能な王さんは、夜も指導や検討につきあって
くれた。僕と鈴木さんはいつも一番遅くまで熱心に指導を受けた。

囲碁は中国で4千年前にうまれたと言われる。
さきほどのダックもそうだが、これが「本場の力」というものか。
ここにきてわずか3日で腕が少しあがった気がする。少し冷えていた
囲碁熱も再燃した。

その晩、僕の対局が終わったのが0時半頃。ふと横を見るといつの
まにか鈴木さんがいない。さすがにもう疲れて先に寝ているのだろう。

そう思って部屋に静かに戻ると、部屋の電気はついていて
テーブルにマグネットの碁盤がきちんとセットされていた。

「さて根本君打つかね」

笑顔でビールを飲みながらこれである。
限界を越えろということか。

一週間の旅行中、毎晩2時すぎまで囲碁漬けだった。
とても還暦を過ぎている人とは思えない。
商社マンの体力は恐ろしいものだった。

記:根本

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