京王線高尾駅の2つ手前、「めじろ台」に着いた。
半年ぶりだ。息が白い。都心より5℃は低い。

実家まで歩いて5分。
その5分で時間がぐんぐん巻き戻る。
僕のために大き目に造られた玄関の扉を開ける。

「あらお帰り。お茶淹れてあげるから炬燵で暖まりなさい」
毎日ここに住んでいるかのようだ。
あれから25年。ここでは僕は息子のままだ。

数年前から僕の席がテレビの正面に変わった。
立ったり座ったりが億劫になったのだろう。
父はあまり座らなくなった。
席が良くなって少し寂しくなることもある。

母は買い物に、父はいつもの散歩に出かけた。
急に静かになった。大きな置時計の小さな針の音がひびく。
冬の陽の光が縁側の鉢植えを優しく照らしている。
いま一人お茶の時間だ。ここで起きた事件が蘇る。

20年前の大晦日。
妹が作ったデザートの杏仁豆腐。慣れないキッチンで
砂糖と塩を間違えたらしい。前代未聞の味。
その衝撃の余韻が冷めやらぬ時だった。
「この人と結婚したい」
突然、彼女が1枚の写真を出してきた。
僕より5歳年上で身長192cm。青い目の大きな弟候補だ。
先週初めて会ったばかりだと言う。

彼から両親に向けた英語の手紙があった。
見ると名前がSEANと書いてある。
「そうか、シーン君か」
僕は動揺を隠しながら訳そうとした。
「ショーンよ。お兄ちゃんだめだ。浩、訳して」
しまった。ローマ字読みしてしまった。
ショーン・コネリーのショーンじゃないか。
兄貴なのに早々にお役御免となった。
5歳下の弟、浩が彼の手紙を訳し始めた。
家族は皆、そこからあの日の紅白の記憶がない。

アマ六段の浩と『兄弟囲碁3番勝負』。
掘り炬燵で繰り広げられる正月恒例の行事だった。
そして3級の父が毎度の台詞。
「そんなところに打つのか。お前たちはまだ何も分かってないな」
「ほんとそうだね」
息子2人は盤面から目を逸らさない。高段者は手抜きの技を知っている。
この光景、弟に娘が出来てここ数年おあずけなのが残念だ。

ここでは色々な話をした。
就職、結婚、離婚、起業、出版…。
僕の全てを知っている唯一の場所かもしれない。

「記:根本」

*いまの囲碁教室で満足できない貴方へ
究極の個人レッスンを目指す『上達の約束』

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

勉強法まとめ


囲碁の勉強法をまとめています。
強くなりたい人は画像をクリックしてください。

『週刊 上達』(無料メルマガ)


↑↑
マークをクリックすると登録ページに飛びます。
イベントの先行案内や、上達に関するコラムを毎週火曜の夜に配信しています。
無料ですのでお気軽にご登録ください。

少人数レッスン


少人数レッスンも行っています。詳細は画像をクリック!

YouTube


『上達の約束』YouTubeチャンネルの過去動画をまとめてあります。
対局や囲碁講座の動画をアップしています

イベント案内


↑写真をクリックすると今後の予定に飛びます
これまでの様子はこちらから

顔が見えるネット碁「石音」

ページ上部へ戻る