列車は朝7時にパースに到着した。50時間近く列車に
乗り続けるのは初めてのことだった。降りてしばらくは
身体が小刻みにふるえていた。
ふつう、列車の旅というとうつりゆく車窓が楽しみだが、
今回はまったく変わらない、うつりゆかない車窓が
心に残った。
途中下車して見た360度赤土の大地は圧巻だった。
来た線路も行く線路も、どちらも地平線までまっすぐ
続いているという絵は、28年経ったいまも
すぐにカラーで取り出せる。
毎回食堂車で会うのが楽しみになった偶然の
出会いもあった。
その4人でパースに着いた翌日待ち合わせして
沖合のロッチネス島に向かった。
そこは自動車の走行が禁止されている、地上の楽園のような
小さな島だった。
ぼくは島に着くとすぐTシャツを脱いだ。
裸にリュックが似合う状況だ。自転車をこぎはじめると
自分でつくる海風が心地良い。
フランス人夫婦もラフな恰好で笑顔でゆっくり
こいでいる。陽気なテリーの会話は自転車に
乗っても止まらない。
遠くの波の音と僕らの話す声しか聞こえない
静かな時間がいつもよりゆっくり過ぎていった。
ちょっと自転車をとめて景色をみていると、
下に置いたリュックが何やらごそごそ言っている。
クオッカという野ネズミのような小動物だった。
かわいかったので、特別にランチをおすそわけした。
海岸におりてみた。あたりには誰もいない。
フランス人夫婦は岩陰で水着に着替えていた。
僕は何の迷いもなく、自転車に乗っていた恰好のまま
海にはいった。まるでここではそうしないといけないかのように。
波打ちぎわで軽く遊んだあと、木陰で休んでいると
あっという間に身体は乾いた。
不思議といつもの海の匂いがしなかった。
国籍も年齢も違うこの4人が、当たり前のように
この天国のような島で一緒にすごしている。
僕はただ、いま、ここで過ごせている幸運に感謝した。
旅の終わりが近づいてきていた。
記:根本
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