素人菜園帳(19)

今朝、向かいの家に住む小学一年生の女の子に
「獲りたての」アゲハの幼虫をプレゼントした。

先日家の前で会ったとき
「こんにちはー。青虫とれた?」

昨夏何匹かあげたので今年も楽しみにしているようだ。

無邪気な笑顔で頼まれては、葉っぱをボコボコにする
にっくき害虫とはいえ、撃退作戦はいったん中止だ。

こうなるといったい菜園で何を育てようとしているのか。

自分でもおかしいが、どうやら僕は彼女と友達になれたのが
嬉しいらしい。

10日ほど前のことだ。
庭で水やりをしていると、向かいの家の3階の窓から
声がかかった。

「何してるの~」

―野菜に水あげてるんだよ。

「へぇ。あのね、これ電車の橋」

一瞬意味がわからなかったが、3歳の弟がつくった模型を見せてくれている。
隣に背の低い男の子が一生懸命に顔を出した。
窓は開いてるが落ちる心配はなさそうだ。

「そうだ、リカちゃんに友達ができたの」
窓から2人ともいなくなった。

なかなか戻ってこないが、この場を離れるわけにはいかない。
彼女が「友達」をつれてもどってきたときに僕がいないと
ショックだろう。

ちょっとまぬけだが、水を止めたホースをもったまま
その場で待った。

「これ、○○ちゃん」
数分後、人形をもって戻ってきた。○○のところは聞き取れなかった。
そのとき階下からお母さんの声がした。ご飯のようだ。
2人とも元気よく返事をして、窓からいなくなった。

声をかけてもらい、ちょっと喜んでいる自分がいた。
7歳と3歳の姉弟から僕はどう見えているのだろう。

その数日後にはこんなこともあった。

2Fのベランダでつれと話をしていたとき、向かいの3階の窓から
彼女がこちらを見ていた。窓は閉まっているので声は聞こえない。

こちらが手をふると、彼女は少し照れながら手をふりかえした。
すぐいなくなったと思ったら、今度は先日とは別の人形だけが
窓にあらわれた。

―きっとリカちゃんだ。そうか、僕らに見せたいんだな。

そのとき、人形が手をふり始めた。

―見た?いま人形動いたよね。

彼女は僕らに隠れて窓の下から人形を操作しているのだ。

―おい、人形劇が始まっちまったよ…。

予想外の展開に笑いがとまらない。
これまたその場を離れるわけにはいかなくなった。

ほんの1分ほどのパフォーマンスが終わると、
彼女はあらわれず、人形だけがそっと窓際に置かれた。

記:根本

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