―なかなか芽の出ない奴だな。
面と向かって言うとトゲがあるセリフだが、
仕方がなかった。もうだいぶ経っているのに
何も変化がないのだ。
「芽」は比喩ではない。
ミョウガの芽のことだ。
ホームセンターで偶然手にとった「ミョウガの乾燥根」
を見ているうちに興味がわいてきた。
どうやって育てるのだろう。
どうやって実がなるのだろう。
家に持ち帰り、乾燥根を10本ほどに小分けして、
陽当たりの悪くなりそうな壁際のエリアに植えた。
太陽の光があたりすぎると育たないらしい。
陽当たりに恵まれない都会の小さな菜園では重宝しそうだ。
1週間ほどたって小さな芽らしきものが見えたとき、
ほっとした。だがそれはミョウガではなかった。
雑草という草はないが、名前を調べる気は起きなかった。
3週間が経ちさすがに少し心配になるも、掘り起こして
様子を見たいのを我慢した。ミョウガと同じタイミングで
植えたショウガのほうも、何度か肩透かしをくったのち
変化が見られなかった。この2人から2週間遅れてまいた
クレソンは、先輩たちをさしおいて小さな芽を絨毯のように
生やしていた。
植えてから1ヶ月が過ぎたある朝のことだった。
定例の早朝見回りのときに、小さな竹のような突起がひとつ
地上に出ているのに気がついた。
おぉ、ひょっとしてこれは…。
胸をすこしだけ躍らせながら周囲を見渡す。
同じような突起があちらに1本。こちらに2本。
あれもまだ小さいけど同じ種類か。
頭の中でNHKのど自慢の合格チャイムが鳴った。
ミョウガは同じ場所で5年ほど育てられるらしい。
その鐘は長距離レースの号砲ともなった。
それから2ヶ月後、この畳一畳ほどの小さなエリアが
高さ1mのミョウガのジャングルのようになり、
小収穫とされる初年度から150本ものミョウガが
とれることになるとは、まったく想像しなかった。
記:根本
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