もっとボケよう(4)

ボケの力を信じている。
出来ればいつも、ツッコむ側よりボケる側にいたい。

だがボケるシーンを間違えると、期待したツッコみが
生まれないばかりか、一瞬の間に永遠の長さと冷たい風を
感じるはめになる。

ある夏の暑い日のことだった。
新調したばかりのサングラスが胸ポケットから
なくなっていることに気づいた。

どこかで落としたのかなと今きた道を戻るも見つからない。
仕方がないので近くの交番で遺失物届けを出した。
人生初のことだった。

「どんなサングラス?特徴は?」
お巡りさんがメモをとりながら訊く。

答えるまえに一瞬、脳裏に期待がよぎった。

「ポリスです。ポリスのサングラス」

好みのブランド名を告げた。
このシーンがくるのを待ち望んでいたのかもしれない。
僕の口元にはかすかなニヤリが出ていただろう。

「えーと、ポリスね。はい」

まったく何の反応もなく届け出は終わった。

もう一つ。

3年前、人生初の入院・手術を経験した。
検査のとき全身麻酔の耐性を見るのか、肺活量を測った。

結果は6,300ccもあった。標準の140%だ。
念のため2度測定したあとお医者さんは言った。

「すごいねー。年間に7千人ぐらい診てるけど、10人いるか
どうかの肺活量ですよ。あなたお仕事か趣味で激しくスポーツ
してるでしょ」

「いえ、どちらも囲碁です」
(この時も口元は少し緩んでいたはずだ。)

「あっそう。それでは検査はこれでおしまいです」

先生は何事もなかったかのようにカルテを閉じた。

手術前に体調は万全だったはずだが、検査室をでるとき
ちょっと寒くなった。

記:根本

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