素人菜園帳(69)

―お前は本当にその色でいいのか。

そう問いかけたくなった。

果物として種子散布の戦略上、常識は「赤」だ。
鳥や動物に見つけてもらい、なるべく親から離れたところまで
運んでもらう。

一皮むけば白い果物は、ライチやアテモヤ、ドラゴンフルーツなど
南国系がうかぶ。日本ではナシやイチジクもある。

だがぱっと見で白い果物が思いつかない。
果物といえば赤、黄色、オレンジ、がほとんどで、緑や黒もある。
白い果物、何かあるだろうか。

テラスに出ると、風向きで急に甘い香りが漂ってくるようになった。
苗で冬越しさせた白イチゴ「白蜜香」の実が満開にむけて本気を
出している。

イチゴケーキの香りみたい、とは、つれの感想だが、
言われてみるとぴったりだ。くやしいがちょっとうまい。

イチゴケーキみたいな苺、とは、
焼き芋のようなサツマイモ、と同じで
「加工品のような原材料」という表現だから面白い。
苺感たっぷりのイチゴケーキ、が普通だがその逆だ。

この白イチゴ、鳥に狙われる心配がなくその点は安心だが、
白いままだと熟したかどうかどうやってわかるのか不思議だった。

イチゴの表面に無数に広がる粒点の赤が濃くなって
表面の色も真っ白から少しピンクがかかる。
色だけでなく香りも強くなる。
食べごろが五感でわかるようになっていた。

以前高級スーパーで桐の箱にはいった白イチゴを見つけたが、
なんと、ひと粒500円でびっくりした。

―うちのも立派に育てばそれぐらいで売れるかな?

じっと見つめていると、うん、見えてきた。

10円玉、50円玉、100円玉にまじり
いくつか500円玉もある。ワクワク。

一度目をこする。

いや、わが素人菜園は、お金では測れない価値、を生む所なんだ。
そうだ。そのはずだ。そのはず…だ。

―お前は本当にそのスタンスでいいのか。

気づくと苺にそう問いかけられていた。

記:根本

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