まっすぐへの憧れ(3)

豪州一の繁華街、キングスクロスの安宿を拠点に
旅の2日目からあちこち歩き回った。

生まれて初めての外国だ。
通りすがりの人もふつうの店もすべて輝いてみえる。

ガイドブックを3分おきに開きながら、まずオペラハウスにむかう。
そして遊覧船でハーバーブリッジを巡った。

たまたま席がとなりになった若い女性と、簡単な挨拶から
会話を楽しむ。授業以外で外国人と会話するのも初めてだ。

でたらめな英語ながら、太陽と海風と笑顔の力で
意思疎通は何とかなっているようだった。

地方から出てきてシドニーの大学に通っている彼女は、
今日半日だけのオフを利用してクルーズを楽しんでいた。
下船前に記念に2人で写真をとってもらった。

夕方宿に戻ると、2人の男性と1人の女性がリビングで談笑していた。
女性は僕のベッドの下の住人だ。
新入りなのでちょっと緊張しながら自己紹介した。

ここに1ヶ月滞在しているという、恰幅のいいカナダ人男性は言う。

「日本人も時々泊まりにくるけど、1人は珍しいね。
たいてい2、3人のグループだから」

1人で旅をするとほかの旅人と仲良くなるチャンスは
増えるのかもしれない。

僕にクッキーをくれたのは、アイスランド人のジョードだ。
旅をはじめてもう3ヶ月になるという。

くれたのは1枚だったが、そのあと何気なく勝手に手を伸ばした
何枚かのクッキーは、じつは彼の夕食だった。
夕食を誘うとこう言った。

「僕はいま済ませたよ」
「できるだけ長く旅をしたいからね」
ひとそれぞれ事情をかかえながら旅を楽しんでいる。

ビールを1缶くれたカナダ人は、さっきから凄い勢いで缶を空けている。
いったい毎晩どれぐらい飲むのだろう。

「さあね。数えてないけど、20缶ぐらいかな」
つまみもなしに7リットル。信じられない。

下のベッドの住人、スウェーデン人の女性は、
まるで今日の天気の話のように言った。

「Hi、AKIRA、明日いっしょに映画いかない?」

自己紹介からまだ3分たっていない。
冗談かと驚くが、ちょうどいま誰か一緒にいかないかと
話をしていたところのようだ。

クッキーの夕食、1晩20缶、いきなり映画。

小気味よくショックがふってくる。
こういうのを旅の醍醐味というのだろうか。

いや、まだ序の口だった。

「記:根本」

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