まっすぐへの憧れ(5)

シドニーで3泊したあと、900km離れたメルボルンに夜行バスで向かう。
途中首都キャンベラで軽い食事休憩をとったあと、少し寝ようと今回新調した
アイマスクをつけてみる。眠くなる前にシドニーでの記憶がよみがえる。

今日の昼間にオアサと2人で観た映画『グリーンカード』は、字幕も
吹き替えもなく、見終わってもグリーンカードの意味すらわからなかった。
隣のオアサがとても嬉しそうだったのと、海外で映画を見たことに
僕は満足した。

長距離移動を夜にすると体力は必要だが、時間と宿代が浮くのがいい。
バスはメルボルンに朝9時頃到着した。

朝といっても真夏の太陽のひざしは強い。日陰をもとめて中心街の
アーケードを歩く。3日ぶりに背負うバックパックが重く感じる。

と、突然道の反対側から大声で呼ぶ声がした。

It’s a small world 、AKIRA!

えっまさか…。

笑顔で顔をくしゃくしゃにしてるのはジョードだ。

3日間過ごしたシドニーの宿で仲良くなったアイスランド人。
徹底して節約をしながら旅を楽しんでいる、あのクッキーの彼だ。

僕より半日早くシドニーを出発していたが、こんな離れた都会で
まさかまた会うとは。日本でいえば東京で仲良くなった人と福岡で
またばったり、という感じだろう。

通りがかりの人に頼んで、記念すべき再会の瞬間を撮ってもらう。

少し話そうよ、と目の前のマックに誘った。だが彼はマックに
入っても何か注文する気配はない。あっそうか、と察した僕は、
彼の分もオレンジジュースを買って座った。

AKIRA、Save your money.

外人がAKIRAと発音するときは2音目、KIにアクセントがつく。
彼はにっこり笑いながら、諭すように言う。

わかったよ。でもこれは特別なんだ。飲んでくれ。

英語でなんて言っていいかわからず心の中でつぶやいたが、
表情で伝わっているようだ。僕らは店内のほかのどの客よりも
テンション高めでこれからの旅の予定を語りあった。

ジョードと別れたあと、メルボルンでの宿を探し回る。
3、4日この街にいようと思うが3軒続けて満室だった。

これからさき何度も経験することになるが、勝手きままの
ひとり旅では、この宿探しに手間取ると結構心が折れる。
炎天下のなか歩きまわるのが嫌になってきたころ、
こんな張り紙が目にはいった。

「エアコンきいてます。アイスコーヒー無料!」

いますぐ冷たいものを一口飲みたい。
何も考えずに扉をあけて中にはいった。

May I help you?

笑顔で受付の女性から話しかけられた。
ここはタスマニア行のツアーを扱う旅行会社だった。

「記:根本」

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