素人菜園帳(76)

素人菜園でもっとも気にかけているのは何?
と聞かれたら、答えに迷うかもしれない。

ひとつきほど前までは苺だった。水やりや肥料の頻度、収穫の
タイミングなど、デリケートなものだけに目配りがかかせない。

最近はあの「カボチャ台木事件」が起きてから全然雌花が
咲かなくなったゴーヤや、はじめて挑戦している大玉トマトの
動向を毎日チェックしている。

ではもっとも気にかけていないのは?

これは即答できる。山菜3兄弟だ。

この春、ノリで小さな3つの苗を買って半日陰エリアに植えた。

素人菜園帳(60) http://jotatsu-promise.com/saien_60/

10日ほどして裏庭の「ゼンマイ」が、さらにその10日後に
玄関脇の塀際に植えた「わらび」が芽ぶいた。

しかし肝心の(注:あくとりが唯一いらないため期待大の)
「こごみ」がうんともすんとも言わない。

場所は地植えエリアの南西の角で、玄関からは最も遠い。
(といっても5mも離れていないが)
背丈が1mまで成長した150本のミョウガ畑のとなり、
上はつると葉がおいしげるサルナシ棚だ。

気にかける度合いが、陽当たりと同じく半日陰から徐々に
完全日影となって、GWを過ぎたころはどこに植えたのかも
わからなくなった。

梅雨入りして間もない先日、空き地や野山でよく見る
シダのようなものが片隅に生えているのが眼にはいった。
近くによると、見覚えのある形が小さく巻いている。
倒れて半分土にうまった「立て看板」にも気づいた。

―春に植えたこごみじゃないか!

3ヶ月以上もまったく音沙汰がなかったあいつが、
ついに、ついに表舞台に出てきたのだ。

やつのサイズにあわせたように小さくしゃがんで
のぞきこんだ。

美しい佇まいだ。
ちょうど雨があがってさしてきた薄日にあたり
神々しい雰囲気さえ感じられる。

日本中どこにでもある、おそらく太古の昔から
その姿形を変えていない一本のシダ。

いままで気に留めたこともなかったものに
一瞬でこれほど心をつかまれるのが不思議だ。

菜園からの粋な贈り物だった。

記:根本

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