夕方になって、いままで赤土と雑草だけだった車窓に
少しずつ変化がみられるようになった。
低木やところどころ小さな林もあらわれる。
最長直線区間もおわり気候帯が変わりつつあった。
夕食のテーブルでは、今まで以上に話がもりあがった。
同じ席、同じメンバーで4度目の食事だ。陽気なシニア、
テリーが場の空気を華やかにした。
僕とテリーは食後に何度かラウンジカーでも
おしゃべりを楽しんでいたのでもう仲良くなっていた。
最初のシドニーからそうだが、こうした旅先での出会いは
男女、年齢、国籍を超えて互いの距離がちぢまるのが速い。
僕の性格が楽天的であることと、ひとりで旅していることも
プラスに働いているようだ。
フランス人のアンドゥルーと奥さんは、学者肌の物静かな
2人で、テリーの話にじっと耳を傾けている。
よく考えれば、新婚旅行の2人の席に僕とテリーは完全に
「おじゃま虫」なのだが、狭い長距離列車で偶然割り当てられた
席なので仕方がない。
2人はそんな素振りはちっとも見せず、いつも楽しそうに
静かに笑っていた。
パースでの予定の話になって、新婚の2人は友人と会い、
テリーは沖合のロッチネス島に行くつもりだという。
僕は帰国まで3日あるので、少し南のフリーマントル
という町にいってみようと思っていた。
ロッチネス島はせっかくなのでぜひ見たほうがいい。
豪州在住のテリーのことばには説得力があった。
結局僕らは、パースに着いた翌日に4人で島に渡る
ことにした。そうと決まると、僕らの距離はさらに
縮まった。
「テリー隊長とゆかいな仲間たち」とひそかに名付けた。
すこし可笑しくなった。
夕食後、列車は最後の停車駅、カルグーリーに着いた。
1時間ほどあるというので4人で散歩することになった。
この乾燥地帯にポツンと小さな街があるのは、19世紀末、
ゴールドラッシュに沸いたからだが、今でも金が獲れる
らしい。
生活用水は600kも離れたパースからパイプラインで
ひいているという。これも世界最長の「水道のまっすぐ」かも
しれない。
昔栄えたことがうかがえる、ずっしりとした煉瓦造りの建物が
並んでいる。
西部劇とは言わないが、映画「バックトゥーザフューチャー」
に出てきた100年以上前の街並みを歩いている気分になる。
駅で絵ハガキをお土産に買って列車に乗りこんだ。
さてこれから夜通し走って、朝にはパースに到着だ。
テリーとサロンカーでジントニックを飲んだあと部屋に戻る。
少し慣れてきた列車の振動を感じながらすぐに眠りについた。
記:根本
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